お、怒ってる……

ルノはわたしがロイヤル部に入る前からすごく優しくしてくれてたから、突き放された時のショックがすごい。



そもそも婚約者は相手にあきらめてもらうための発言で、まさか本当にそうなるとは思ってなくて。

……そんなに、怒らなくても、いいのに。



「それじゃあ、もういい。

婚約者の話は白紙にしてくださいってあなたのお母様に伝えて」



「、」



「もうわたしから仕事のこと以外で話しかけない。

それがよかったんでしょ?そうさせてもらうわ」



あえて、冷たく突き放す。

そう言って怒ったようにC棟の廊下を、リビングの方へと引き返そうとすれば。腕をぐっと掴まれて。すっぽりと後ろから抱きしめられた。



……優しくしたらそうやって怒るくせに。

突き放したらこんな風に甘えるのはずるい。




「……ごめんなさい」



「……、なんで謝るの」



「嬉しかったんです、ほんとは。

でも……こうでもしなきゃ、俺めちゃくちゃに迫りますよ。先輩ぜったい困るじゃないですか」



数日避けた罪悪感からか、ぼそぼそと言い訳するルノ。

確かにめちゃくちゃに迫られたら困るけど。だからって無視はどうかと思う。対応があまりにも対極すぎてついていけない。



「言いましたよね、俺も男だって」



「………」



「婚約者ってだけで、先輩が振り向いてくれなくとも、こっちは浮かれそうなんです。

いつみ先輩も最近なんだか機能してないし。……その隙に奪いたいと思うぐらい」