その言葉が有効な相手はかなり限られてくるが、ひとまずわたしとルノは婚約者という形におさめられた。

といっても、何か契約があるわけでもなく、ただ普通に八王子で婚約話が上がった時に使えるように、というもので。



「ねえ、ルノ」



「………」



「……ルノってば」



婚約者については、解決したはずなのに。

土曜日から数日。困ったことに、わたしはルノに何かと無視されるようになってしまった。



「……なんですか。

俺本部テント行かなきゃいけないんですけど」



そして今日は体育祭。

数日間、この仕事に関することでしか話してもらえなくなって、わたしはヤキモキさせられている。




「なんで無視するの」



「無視なんてしてません。

現にこうやって会話してますよね?」



「仕事のことでしか話してくれない。

……わたしがあの日あの場所に行ったこと、そんなに怒ってるの?」



確かにあの日わたしがやったことは、失礼極まりなかったと思うけど。

ルノだって結婚したかったわけじゃない。だから彼にとっては何も悪い方向へは転んでいない。なのにずっと"こう"だし。



「……俺言いましたよね?

南々先輩の優しさは残酷だって」



「………」



「婚約者になったこともそうです。

好きな相手と婚約者だって言われたって南々先輩は振り向いてくれません。なのに俺にどうしろっていうんですか」