「はっ!? おまっ、まさか何もナシかよ!?」
迷惑にならないよう、できるだけ声をひそめる。
現時刻は12時過ぎ。12時から昼食と同時に、って言ってたし、はじまって間もない頃だからまだ穏やかだろうけど。どうもハラハラする。
「八王子とのつながり以上にデカいもんなんかねえだろ。
それならルノにキッパリ断らせる以外に方法なんかねえよ」
「お、ま……
それならルノに事前に話すだのなんだのできただろ!?」
「事前に話しても意味ねえよ。
あいつに、相手の目の前で南々瀬に対する感情を認めさすしか、相手に諦めさせる方法なんてねえし」
それはそうだけどな……!!
失敗した時のリスクどうすんだよ!?手持ち無沙汰で言って敵う相手なんかじゃねえぞ!?
ふつふつとこの時点に陥るまで黙っていたいつみへの苛立ちが湧く。
けれど俺らで言い争ってる場合じゃない。それにどうしたって俺にはいつみ以上の力がない。
「……相手が穏やかなうちに行くぞ」
そう言って、立ち上がるいつみ。
それをどうすることもできずに縁側の方へ出て、そのまま隣の部屋へと歩み寄る。それから。
「失礼致します」
いつみが何のためらいもなく襖を開いたから、もはやため息が漏れそうになった。
……こいつ正気かよ。ありえねえだろ。
「なんだ……君はどこかで、」
「珠王いつみです。
大切なお時間へのご無礼をお許しください」
敷島側と、どうやら顔見知りではあるらしい。
でも許してもらえるわけがない。案の定相手は眉間を寄せているし、ルノは開けた瞬間驚いた顔をしていたが、何とも言えない曖昧な表情で俺らを見ていた。



