「なんて言ったの?」
案内してもらいながら、女将さんには聞こえないように静かに問いかける。
料亭の中は、和風も和風。窓の奥に、広くて優美な日本庭園が見えた。
どうでもいいけど、俺の地毛は黒だ。
地毛まで金髪にしてなくてよかった、と、今日ほど思ったことはない。オレンジベージュやら臙脂やらの中に金髪がいたら、もう入れない気がする。
「あ? 親父の名前使った」
「……、許可とった?」
「取ってるわけねえだろ。
いくみがルアにファイル渡してんなら、あいつが何かしら親父に言ってる」
……お前は相変わらずそういうところ適当だな。
なんだかんだ頼ってるあたり、まだまだこいつもシスコンだろうけど。
言ったら殺されかねないから、黙っておく。
恋人同士なのに、ふたりでいても彼女が仕事の話と弟の話しかしねえから俺は悲しいよ。……悲しいっつうか、腹立ってくるよな。
最近はお互いに忙しいせいで、同じ学園内にいても顔合わせねえんだけど。
……ってそうじゃなかった。いまはルノだな。
「こちらへどうぞ」
そう言って通された部屋は、日本庭園を眺めることができる縁側の隣の部屋。
どうしてここなのかと思ったら、「隣」と端的ないつみの答え。
適当な返事だけど、それでも意図が伝わるくらいには長い時間を一緒に過ごしてきた。
隣の部屋に、ルノがいるってことだ。
「で、作戦は?」
聞けばいつみは、小さく息を吐く。
それから「説得」と一言。 ……ん?待てよ?



