楽しそうな声が聞こえて扉が開くと、それはもう隠す事なく盛大にため息をつくいつみ先輩。

それを目ざとく聞きつけた彼女は、「いつみ〜っ」なんて言いながら彼に駆け寄り、抱きつこうとする。……が。



「っ……いつみひどい」



俊敏な動きで一足早くソファから退いた彼は、ソファの裏に回って「何の用だ」と尋ねる。

けれど抱きつくのをよけられたせいか不機嫌に頰をふくらませた彼女は、ふいっと顔を背けた。



「いつみが謝るまで何も話さない」



「そうか、なら俺は部屋に帰る」



「嘘よ!

姫ちゃんの入部届を受け取りに来たの!」



本気で部屋に帰る気だったのか扉の方へ歩き出す先輩を、彼女が引き止める。

彼が立ち止まって振り返ったのをいいことに、今度こそ彼女はぎゅうっと抱きついた。……相変わらず熱烈だ。




「なんで入部したこと知ってんだ」



「えー? ひみつっ」



語尾にハートマークでもつけそうな勢いでそう言う彼女を睨む先輩。

抱きつかれると面倒が勝ったのか、引き剥がすこともせず「さっさと持ってけ」と彼女の入部届を指差す。



「あと10秒だけ。おねがい」



「……お前のお願いは信用ならない」



「えー、やだー。

いつみってばお姉ちゃんに冷たいんだからー」



ほんとは好きなくせにー、と。睨まれているにも関わらず、まったく離れようとしない彼女。

夕さんに低い声で物騒な事を言われるよりよっぽど怖いと思うけど、ある意味この人は最強だ。