「じゃあ、理事長室行ってきますね」
財布とスマホをカーディガンのポケットに入れて。
長らくの作業で出来上がった書類をはさんだ分厚いファイルを重ね、腕に抱える。それからその上に普特希望調査票を乗せて、部屋を出た。
「ななせ、待って」
「……ルア?」
「これも、もってく」
いっしょに行こ?と、首をかしげられて。
思わず笑みをこぼして、うん、とうなずいた。
理事長室はB棟にある。
なんでも、ほとんどの生徒会役員は特進科の生徒だから、特進科の教室がある校舎に作ったらしい。
でも残念ながらみんな教室に行っていないせいで、あんまり意味がないような……
C棟の隣だから、近いのは近いけど。
「ルア、外出るようになって、どう?」
「んー……」
ブラウンがかかるグレーの瞳。
陽に透けて、今日もとても綺麗だ。
「やさしい、ね。みんな」
「、」
ぽつりとこぼされた言葉から、春の匂いがした。
季節はもう秋なのに。最近じゃカーディガンだけじゃ寒いっていうのに。春の匂いがするのは、きっと、ルアがそういう人だからだ。