「……あ、」



部屋で話しますか?と問えば、彼は「ううん」と首を横に振る。

誰かを起こしてしまってはいけないからと、ひとまずリビングを出ると、シンと物音ひとつしない廊下で向かい合った。



「文化祭、楽しかった?」



「はい、とても」



「ふふ、きみがたくさん頑張ってたって聞いたよ。

きみのおかげで、ロイヤル部の仕事のはやさと出来栄えが格段に上がってるって、いくみも褒めてた」



そう、なんだろうか。

わたしはただ、できることをしようと心がけているだけで。大したことはしていない。いくみさんは色々とわたしを気にかけてくれる。



彼女は、理事長と同じで唯一わたしのすべてを知っている人だから。

何かあればわたしのところにおいで、といつも言ってくれる。




「もう、転校してきて3ヶ月以上経ったね」



「そう、ですね」



「……きみの返事は、夏休み前と変わらない?」



夏休み前。理事長に呼び出された時。

彼はわたしに、気持ちは変わらないのかと尋ねてきた。そしてわたしは、変わらないと返事した。この先も両親と過ごしていく、と。



「わたしの、返事は、」



脳裏に浮かぶのは、彼の姿。

普通じゃないこの学園の中で、トップに立つ人。──唯一無二の、絶対王者。



ぐらりと何かが揺らぎそうになって、下唇を噛む。

別れまでのタイムリミットを、せめて楽しく過ごすつもりだった。だからロイヤル部に引き入れられた時、悩んだ末に自分から足を踏み入れた。