好き、って。

思わずバッと顔を上げるけれどパントリーが邪魔して、莉央さんの顔は見えなかった。



「いっちゃんがいるから、だよ〜。

莉央が罪悪感を捨てた上で、何も言わねえなら。……それはいっちゃんへの遠慮じゃなくて、いっちゃんに対する絶対的信頼の忠誠の表れ」



莉央さんが、いつみ先輩のために何も言わない理由。

それは今までずっと抱いていた罪悪感じゃなくて、いつみ先輩と莉央さんの間にある絶対的な信頼のため。



「この間、好きって言わねえの?って俺がルノに聞いた時。

莉央が口添えしたのは、俺の目的とは別」



「………」



「だよな〜? 莉央ちゃん」



甘い声色へ戻った椛先輩の話をしっかり聞いていたらしく、リビングからは「そーだな」とそっけない莉央さんの返事がかえってくる。

……この話を一体、いつみ先輩はどんな顔をして聞いているのか。




絶対いつもと変わらない表情で、落ち着いた雰囲気で聞いていることはわかっているのに。

なぜかとても彼の表情が気になった。



「……でも、

るーちゃんがわざわざ言ったってことは」



「、」



「お前なんか俺に隠してるだろ?」



……話すなら口調を統一してほしい。

わざと変えてるのか無意識なのかは知らないけど、脳がそれに追いつけなくて困る。



「……、隠してるわけじゃないです。

ただ、まだ言うなって言われてるだけで」



ため息に似た吐息を吐き出しながら、顔を上げる。

ようやく視線を合わせれば椛先輩はジッと俺のことを見つめていて。探るような瞳を安心させるように、笑ってみせた。