「……言わないわ」
「………」
「いつみ先輩には、言わない」
両想いだと、知っているのに。
彼女が頑なに「言わない」のなら、それには理由があるんだろう。俺には想像もできないほどまっすぐに物事を見据えてる、彼女には。
「……だから、先輩には黙ってて」
「さすがにバラすような悪趣味なことはしませんよ」
この人にはじめて"ルノ"と呼ばれた時、俺がどんな気持ちだったのか。
わかってもらおうとは思わない。……わかってもらったって今じゃ惨めな話だけど。
「ありがとう。好きって言ってくれて」
「……はい」
「……ごめん、ね」
彼女の手が、背伸びして俺の髪に触れる。
身長としては彼女の方が小さいけれど。……それでも年上であることを思わせるような、相変わらず優しい触れ方だった。
「……謝らないでください。
まだ俺、あきらめる気は、ないですから」
うわべの言葉などいくらでも。
"俺"の話を、聞き逃さないようにまっすぐ俺を見据えていた彼女のためになら。
いくらでも、取り繕える。
……それでもやっぱり、"ごめんなさい"と"ありがとう"は、セットだった。



