逃げてるって言われたらそれまでだと思う。

実際、自分でも逃げてるんだろうなって思うし。



「……ふう」



言い訳して出てきたリビングから向かった先は、C棟の屋上。

城のようなこの学園で一番高い棟の屋上。どこに行くのかは言わなかったけれど何かあるたびに俺がここに来ることは知られているからバレてるだろうし。



……ああ、そういえば。

ルアのことで彼女にお礼を言ったのは、ここに彼女をはじめて連れて来た時のことだったか。



怒られたけど。

一字一句覚えてるあの言葉を、俺はきっと二度と忘れないんだろう。



「……下は暑いけど。

ここに来るとやっぱりすこし涼しいわね」



背後から聞こえた声に、ぴくりと肩が揺れる。

振り返れば目を細めた彼女はふふっと笑って、「ここにいるって聞いたから」と歩み寄ってくる。




「教室、行ってたんじゃないんですか?」



「行ってたんだけどうちのクラス作業早いのよね。

時間空いちゃったし、女の子たちが浴衣に合うヘアアレンジの練習するとかで、抜けてきたの」



「ああ、わらび餅売るって言ってましたっけ……」



浴衣で売るのか。

先輩も浴衣着たら似合うんだろうけど、残念ながら彼女は実行委員だ。少なくとも来客が押し寄せる最初はずっと受付に縛られている状態だろう。



「……南々先輩」



「うん?」



フェンスに指をかけて学園を見下ろしている彼女を呼べば、こちらに顔を向けてくれる。

その瞳に映りたいと言ったら。……ああ、困ったように笑う彼女の姿が、想像できるな。