そう思ったら、容易には言えなかった。

そのくせ触れたい気持ちだけは止められなくて、何度か強引に迫ったりもしたけど。



「……お前、それ本気で思ってんのかよ?」



どこかしっとりとした、それでも相変わらず微妙に軋んだ雰囲気の中。

口を開いたのは莉央さんで、呆れているような声色だった。だけどまるで、「わかってねーな」って言われたような気分になるそれ。



「……本気で思ってんなら、言わねー方がいいんじゃねーの」



「………」



「好きなくせに見えてねーよなお前は」



自分の方が南々先輩のことをわかってるとでも言いたげな莉央さんの口調に、眉間を寄せる。

好きなくせに見えてないって何が。……俺が?




「どう考えてもあいつは、周りから言われること気にしてないだろ。

……そんなんで傷つくほど、あいつは弱くねーよ」



弱くない。その通りだ。

それを知っているからきっと、莉央さんも素直に自分の過去の話を打ち明けた。南々先輩なら間違いなく受け入れてくれるとわかっていたから。



まあ、いつみ先輩に話すよう言われたみたいだったけど。

それでも莉央さんが自分で決めて話をしたのも、いつみ先輩に抱いていた罪悪感を気にしないようになったのも、そのおかげで。



「つーか、そんなんで折れるような弱い女だったら、

こんなに俺らと長いこと過ごしてねーだろ」



発そうとしていた言葉を、奥歯で噛み砕く。

……わかってる。南々先輩はたとえ俺のせいで自分が悪く言われようと俺のせいにはしないし、むしろ。



「……ちょっと外の空気吸ってきます」



それに対して、"ありがとう"と言ってくれるんだろう。

わかっていたから、言えなかった。……だって告白の場合は大概、"ありがとう"と"ごめんなさい"がセットだからだ。