「どうしたの?」と尋ねるわたしに、「さみしい?」と質問で返してくる。

その意図がわからなくてはかるように目を細めると、ルアの手がわたしの頰を撫でた。



「ここにひとりで、さみしい……?」



「、」



「げんきないね」



……感情に敏感なルアは、些細なことでも気づいてしまうんだろう。

無意識に乾いた笑みが漏れたけれど、取り繕うようにして「平気」と付け足す。



「わたしね。

……両親に誕生日を祝ってもらった覚えがないの。数回はあったかもしれないけど、幼い頃の記憶があやふやで、覚えてなくて」



誕生日だと気づかなかったのは、祝ってくれる人がいないから。

みさとや大和は覚えているから連絡をくれるけど、そのたびにどこかで落胆する自分がいる。




「……でも来年からはずっと一緒だから平気よ」



冬が来ればわたしはここを離れて家族と暮らす。

たった3人で。──誰にも干渉されない場所で。



「……来年?」



顔を上げたのは、今日も優雅にソファに座る彼。

別れのことは言えないけれど、来年のことは隠さなくてもいい。ボロを出してしまわないように気を引き締めながら、口を開く。



「長年続いてた研究が、冬に終わるらしいんです。

いまは調整の最終段階みたいなので、来年からは両親と暮らします」



「あら、よかったじゃない」



一緒にいられるようになって、と。夕帆先輩の純粋な言葉に、胸の奥がじりじりと痛むけれど。

もう決めたことだから、「はい」と笑ってみせた。