端から逃す気なんてなかったんだろう。
頰を撫でた手をそのまま添えられて、引き寄せられた瞬間には、くちびるが重なる。
「んっ……」
くらくらする。
恥ずかしくなってすぐに目を閉じてしまったけれど、そのせいで何をされるのかわからなくなって、余計に恥ずかしい。
どれくらいの時間だったのか、わからなかった。
だけどあんなに熱く触れたはずのくちびるはそれが嘘みたいに優しく触れるキスだけで離れて、至近距離でまた視線が絡む。
「好きだ」
「っ、」
甘い声にも、甘い吐息にも、甘い視線にも。
どうしようもなく心を揺さぶられる。
「……姫のことが、なかったとしても。
俺は絶対に、お前のことを好きになってる」
「いつみ、せんぱ……っ」
また、触れるだけのキスが落とされて。
一瞬伏せていたまぶたを持ち上げる姿がやけに色っぽくて、感情を持っていかれる。
「……俺にしとけ、とは、言わない。
でも、俺はどうしようもないぐらいお前が欲しい。だから、俺のもんにならねえか?」
こんなにもまっすぐに言葉を向けられたことなんてなかった。
まっすぐに向けてくれるこの人がたまらなく愛しいなんて、知らなかった。
わたしだってどうしようもなく恋しい。
この人だけで感情を染められてしまう。だけど。
別れのタイムリミットが、刻一刻と迫ってる。
彼は今、間違いなくわたしを求めてくれているはずなのに。涙が溢れてしまうほど、悲しかった。悲しくて、それでも。──気づいたら、好きだった。