どういう仕組みなのか……いや、おそらく防音なんだろうけど。

ドアの向こうの声は一切聞こえてこなくて、秘書さんが取った行動はといえば。



え。……え?

ドアの横に、よく見たらベルがついてる。あの、あれだ。アパートなんかにある、インターフォンのモニターが付いていないベル。



それをぴんぽーんと、彼女は何のためらいもなく押した。

……普通はノックするんじゃないの!?どうしてベル!?



「ここ、防音になってるのよ。

だからノックしても、向こうには聞こえなくって」



「ああ、なるほど……」



わたしの心を読んだかのようにおしえてくれる彼女に、納得する。

さすが私立、なんて思っていれば、教室のドアが内側から開いた。



……のに、中はやけに静かで。目が合った担任の先生と思しき人が、「姫川さん」とわたしを呼ぶ。

思わず呼吸を呑んだせいで、こくりと喉が小さく鳴った。




「じゃあ、がんばってね。姫ちゃん」



「あ、はい。ありがとうございました」



秘書さんとは、ここでお別れ。

ひらりと手を振って踵を返した彼女はカツカツとヒールを鳴らしてあっという間に歩いて行き、それを見送ったところで、わたしの歩く速度に合わせてくれていたことを知った。



「どうぞ」



招かれて、小さく「はい」と返事する。

それから入った教室の中は、うって変わって普通の教室だった。次元違いなものを見ていたせいで、その差に笑ってしまいそうになる。



「では、自己紹介をお願いします」



担任の先生に促され、多数の視線を浴びながらも。

それにひるむことなく、口を開いた。