「去年俺が生徒会役員になったのは、
あいつが俺のために頭下げたからだって、」
「………」
「それだけがどうしても、罪悪感として残ってる」
企業秘密だって言ってたけど、本当は知ってる。
前年の生徒会長が、俺ともうひとりの候補者で、生徒会役員を悩んでいた時。そうやっていつみが頭を下げたから、俺がメンバーに入ったってこと。
あいつが私情を挟んだってことは変わらない。
……それだけが、今も、燻ってる。
「……そこまでが、いつみ先輩に、
わたしに話してこいって言われたこと?」
別荘の中では、椛を中心に夕飯の準備をしてる。
テラスの柵に背を預ける俺の話を、南々瀬はずっと海を見ながら聞いていた。……もうすぐ、夕日が穏やかな波を寄せる海へと沈む。
「……ああ」
「……それを聞いた限りじゃ、
罪悪感を抱く必要、わたしはないと思うけど」
「………」
「だって決めるのは生徒会長なんでしょう?
それなら、いつみの意見を聞いても生徒会長が通さなかったら、あなたは生徒会役員になれなかった。……だから、気にしなくていいと思う」
「でも、」
「ああ、もちろんあなたの言いたいこともわかるわよ?
……だけど、あなたが命を捧げたいつみ先輩が「必要ない」って言ってくれてるんだったら。それでいいんじゃないかしら」
身勝手かもしれないけど、と付け足した南々瀬。
海に沈む夕日が見える別荘と、潮風に攫われて靡く南々瀬の黒髪。シチュエーションだけ見れば完全にロマンチックではあるが。