スポーツ科はもちろん運動系の部活に所属してるヤツばっかりだから、部活のオフもねーし。
めっきり時間が合わなくなって、今はもう遊びに行くこともない。そうこうしているうちに準備は終わって、食材を揃えてもどってきた椛と南々瀬。
椛がトングでコンロに食材を乗せるのを見つめながら、「そういえば……」と南々瀬がつぶやく。
冷えたミネラルウォーターをルノに渡してやっていたいつみが、「どうした?」とそれに反応した。
「わたし、
バーベキューしたことないなと思って……」
その言葉に妙に納得してしまうのは、南々瀬の住む厳重すぎる城のことを思い出したからだ。
研究者の娘っつってたけど、いささか腑に落ちないところがある。でもまあいつみと同じパーティーに出てたなら、お嬢様育ちも頷けるが。
「言われてみれば、僕も初めてな気がします。
……ルア。バーベキューなんてしたことあった?」
「んー……? ない、かなぁ……」
で、正真正銘のお坊っちゃまたちも「ない」、と。
……どうでもいいけど、俺のまわりは色々と次元がおかしい。まあ王学に通った時点で、普通とは無縁な世界だと、知っていたけど。
「なら、いい思い出になるようにしねえとな〜」
「せっかくのご褒美旅行だしな」
「遊び尽くして帰らなきゃもったいないじゃない」
椛、いつみ、夕帆の言葉を聞いて、3人とも「そうだね」と笑っているから。
俺も空気を壊すような、不躾な事はしない。
「はい姫からど〜ぞ。……ど?美味しい?」
「ありがと。……うん、すごく美味しい」
楽しむ事はできる。──ただ、稀に。
どうして俺はここにいるんだろうかと、世界が色褪せたように見えるだけで。



