ふとした瞬間に南々瀬に向けられる、夕陽のやたらと甘い視線。
愛しさを込められたそれは甘いはずなのに。一方通行な感情まで表すかのように、どことない物哀しさを覚えさせられるのは、紛れもなく夕陽の表情の作り方がプロだから。
でも。
「……あれが素よね、夕陽の。
別に、表情(かお)作ってないでしょ?」
「……あ〜んな素直に顔に出る子じゃねえよ」
「だと思うでしょ?
だけど姫ちゃんが普通に話してるのを見ると、彼女の前じゃあの顔は通常運転よ。……本人の前で、好きでどうしようもないって顔してる」
いくみさんから見ればそうなるらしい。
そうこうしてるうちに試し撮りを終えてもどってきた南々瀬に、「夕陽に何言われたんですか?」とルノが問いかけるけれど。
「ひみつ」と、
夕陽が後ろから南々瀬の口を手で塞ぐ。
「女の秘密を暴いたら、綺麗に見えないでしょ」
「……あら、夕陽の割にいいこと言うじゃない。
姫ちゃんのこと好きってバレバレの顔してたけど」
「いいよ別に、いまの写真どっかに載せるもんじゃないし。
ちょっとメンバーから連絡入ってたから、電話してくる。ナナ、休憩してなよ」
まだ離していなかった手を離す、そのタイミングで。
後ろから顔を寄せて南々瀬の頰にくちびるを押し当てた夕陽は、悪戯に口角を上げてスタジオを出ていった。
「あいつ懲りねーな……」
「いいじゃない、恋愛に浮かれるなんて子どもっぽいところが残ってて。
でもあれだけオープンってことは……姫ちゃん、もしかして夕陽に告白でもされた?」
「……いくみさんって怖いですね」