「……いや、やっぱなんでもない」
本当は。
"大丈夫なの?"って、聞くつもりだった。
この城の中はまだまだ不安定で、今ですら建っていられるのがやっとなのに。
そこに新しい要素を加えて、化学反応でいい方向へ転がってくれるならいい。だけど、上に立つ人間はいつだって、"万が一"悪い方向へ働いた時のことを考えておかなきゃいけない。
念には念を。
心配しすぎだと言われても、それくらいでちょうどいい。
卒業まであと1年もないし、用心するに越したことはない。
でもいつみは、いつだって予想を裏切ってくれるから。悪い方へ転がったことなんて、俺の知る限り、一度もないから。だから絶対的に信頼してる。
「南々瀬ちゃんがはやく馴染めるといいわね」
いつみの言う「大丈夫」は、間違いないと。
「……そうだな。
でもお前、それより先に言うことがあるだろ」
「ん?何かしら?」
「あいつ絶対、お前が女だって思ってるぞ」
それを聞いて、ふっと口角が上がる。
まあ無理もないわよね。普通に考えて、女子生徒用の制服を着てる女を見て、男だなんて疑うわけがない。
男が女装すれば一応どこかに男らしさが出てしまうはずなんだけど、俺にはそれが全く出ない。
私服はパンツスタイルだけど、街中で男に声をかけられるなんてザラだ。
「黙ってたらいつ気付くと思う?」
「気づくか気づかねえかはどうでもいいけど、
時間がかかった分だけお前への信頼ガタ落ちだろうな」



