言うことでさらに夕陽を傷つけることになると思ったから、言えなかったこと。
きっとこの先も告げることはないんだろうけど、大事にしてれていた夕陽に甘えていたのはわたしの方だと言えば、彼は驚くかもしれない。
こんな風に振舞ってはいるけれど、夕陽は自己評価が低い。
芸能事務所に入っていたのだって、自分に自信をつけたいからだって言ってたし。
「話、終わった?」
「……呉羽」
「兄ちゃん、話が思った以上に長くなっちゃったからみんな部屋で待ってるだろうし、ふたりの邪魔しないようにって先もどるって言ってたよ。
気が向いたらC棟おいでって言ってたけど、このあとどうする?夕陽」
からんと、椛にお願いされたんだろう彼の分の缶をゴミ箱に入れる呉羽くん。
答えを求められた夕陽はスマホをちらっと確認してから、「ナナはどうすんの?」と首をかしげる。
それに対して「作業あるからC棟もどるわね」と持ってきたスマホへ視線を落とす。
時間を確認すれば15時前。……ん?15時?
「あっ。
ごめんわたし、撮影らしいから行かなきゃ」
いくみさんからさっき届いた連絡を思い出して、途端に焦る。
スタジオって言ってたけど詳しいことはわからないから、先輩たちと一緒に行かなきゃいけないし。
そう思ってまだ見学するだろうふたりに手を振って別れようとすれば、
「待って、ナナ」と夕陽にがっつり呼び止められる。
振り返ればどこか楽しげな笑みを浮かべた夕陽と。
困ったようにそんな夕陽を見る呉羽くんの姿。
「なんで俺がわざわざ今日来たと思ってんの?」
「……え?」
「俺の仕事。忘れてもらっちゃ困るんだけど」



