「……夕陽はずるいわよね」
「………」
「わたしに一度も、「好き」って言わなかった」
夕帆先輩の話を聞いて彼は相当不器用なんじゃないかと思っていたけど、それは夕陽も同じだ。
自分の身を削ってまで付き合いたいと思えるほど、わたしは魅力的な女じゃない。
「……言ったら、離れてくじゃん」
「、」
「『ごめん』って言われるの、わかってるし。
……それならはじめから、気づかれてるのわかってても言わないほうがマシだった」
そこまでして想ってもらえるほど大きなものなんて、わたしには何もないのに。
「好きに決まってんじゃん」って、今になって優しすぎるほどの言葉で囁いてくるから。
「……ごめんね」
「……うるさい言うなばか」
「………」
抱きしめる腕の力が強くなって、名前を呼んでも返事はなくて、ただじっと夕陽はわたしを抱きしめたままで。
ようやく離れてから、「言わないつもりだったのに」と拗ねたように言った。
「……将来有望なアイドル様振っちゃってさ。
あとになって後悔しても知んないからね」
精一杯の夕陽の強がりに、「うん」とうなずく。
言えなかったことが一つだけある。……大和を好きな気持ちは変わらなかったけど、彼への気持ちにケリをつけられたのは、紛れもなく夕陽がいてくれたからだった。



