なのに、それが嘘みたいに。
こんな風にか細く尋ねてくる姿は今も昔と変わらなくて、甘えたで。再会してから数回しか会ってないのに、わたしが逃げていることに気づいてる。
「ちゃんと言ってよ、ナナ。
あのときはっきり言われんのが怖くて、結局ナナのこと空港まで見送りにもいけなかった」
「……夕陽」
「お願いだからさ……
嫌いなら、ちゃんと嫌いって言ってよ」
……嫌いな相手と付き合おうとなんか思わない。
本当に嫌いだったら、抱きしめることすら許してあげない。嫌いなわけないのに。
「……嫌いじゃない」
夕陽がこんなにも自信なさげなのは、わたしが大和と両想いだったからだ。
お互いに好きだったのに、利用していいよと囁いて、あえて彼から視線が逸れるように仕組んだ自分の行動を、ずっと気にしてる。
「嫌いじゃないわよ」
「……好きでもないくせに」
「そうね。ただ嫌いじゃないだけよ」
胸のあたりで交差した彼の手が、自分の方へとわたしを引き寄せる。
強い力はわたしじゃ絶対に勝てなくて、"離さない"って言ってるみたいで。
「……俺のとこ、戻ってきてくんないの」
その一言が、夕陽の気持ちのすべてだ。
……知ってた。利用していいよって近づいたのに、わたしが大和のことを好きだったから、一方的に夕陽が苦しんでたこと、本当は知っていた。
夕陽が、利用していいよって言葉で隠した本心に、とっくに気付いてた。
わたしのことを本当に好きでいてくれていることを知っていたから、言えなかった。



