「ねえ、喉渇いたからちょうだい」
そう言ってわたしのレモンスカッシュの缶に口をつける夕陽。
別に飲んだっていいけど、聞くのならせめて返事を待ってほしい。
「ごめん兄ちゃん、邪魔したよね……」
申し訳なさそうに呉羽くんが椛に謝ってる。
いつもこうやって嫌味な夕陽の言動に彼が謝ってるんじゃないかと心配になっていたら、それが顔に出ていたようで「失礼だね」と言わんばかりの表情。
「俺だってそんなにしょっちゅうわがまま言ってない」
「……わたしの前では随分とわがままが多いのね」
夕陽から返されたレモンスカッシュの残りを飲み干して。
自販機の隣のゴミ箱に捨てようと、ベンチから立ち上がる。なぜかついてくる夕陽は、「ねえ」とわたしに呼び掛けてくるけれど。
「もう、なに……?」
ゴミ箱に缶を入れたら、そのタイミングで後ろから抱きしめられる。
耳たぶに触れる彼の声が甘さとともに切なさを伝えてくるから、容易に拒めなかった。
「……なんで、俺じゃだめなの」
「、」
「留学が理由で別れたのに、帰ってきたと思ったら、なんでそんなに俺に冷たくすんの……?
俺のこと、そんなに嫌いになった……?」
別れる前よりも身長は随分と伸びて、いまでは見上げなきゃいけなくなった。
出会った頃はまだ小さかった手も、すっかりわたしより大きくなって。大人びていたけれど、それでも幼かった夕陽は、ちゃんと大人の男に近づいてる。
「……それとも。
留学するタイミングで別れられて、清々してた?」



