「そういえば、いつみ。
あんた南々瀬ちゃんにお昼用意しとくとか言ってたけど、」
誰かに作らせるのか、買ってくるのか。
どうするのかといつみを見たけど先に返事をくれたのは甘ったるい紅茶を飲む椛で。オレンジベージュの髪が揺蕩うように揺れた。
「作るのは俺〜。
っていうか俺しか料理できねえじゃん?」
「……椛がそれを知ってるってことは、はじめからそうするつもりだったのね」
「朝起きてリビング来たら、いきなり"今日の昼飯ひとり追加な"って言われたんだよ〜。
あ、これ飲んだら買い出し行くから、るーちゃん付き合って?」
「いいですよ。お昼何にするか決まったんですか?」
ルノの問いを聞いて、今度は椛がいつみに答えを求めるように視線を向ける。
それを受けたいつみは「グラタン」と一言。今日の昼飯は、どうやら南々瀬ちゃんの意見で確定したらしい。
「グラタンだけだと莉央なんかは「足りねー」って言いそうだな〜。
んー、まあいいや。スーパー行って、お得商品でも見て適当になんか一品メニュー考えるかな」
「……あんたが人妻にモテる理由、わからなくもないのよね」
「それはどうも。ってことで、いってきま〜す」
「いってきます」
立ち上がった椛に合わせて、席を立つルノ。
そのまま財布とスマホだけ持って、ふたりとも買い出しに出かけていった。……となれば、この空間は必然的にいつみとあたしだけになるわけで。
「ねえ、いつみ」
声をかければ、いつみは「なんだ」と返事をするけれど。
視線はがっつり手元のパソコンに向けられていて、瞳に俺を映す気配はない。……話すときは一応相手見ろよ。見られたって話しにくいけどな。



