……あ、夕帆先輩がここまで男口調になると、これはもう口調を変える気がないパターンだ。

というか、いつみ先輩といくみさんはやっぱり仲が良い。なんだ報告って。かわいい人だな。



「俺だって何が悲しくて自分の姉と幼なじみの話を延々と聞かされないといけねえんだよ。

あとあいつのスキンシップはやく改善しろ。抱きついてノロケられると心底うざい」



「なんでお前がいくみの弟なんだよ」



「俺だってなりたくてなったんじゃねえよ」



……このふたりも本当に仲良いな。

幼なじみでお互いのことを分かっているからか、言い合いしてるけどハラハラしない。むしろ何かのコントなんじゃ?と思うほどテンポの良い会話だ。



それを聴き流しながらいくみさんに了解の旨を書いたメールを送信すると、「ちょっと外行ってきますね」と作業を保存して席を立つ。

「どこ行くんだ?」と首を傾げられて、「外の自販機まで」とみじかく返事した。



冷蔵庫には椛が買い出しで買ってきてくれるジュースがあるし、ルノに言えば紅茶を淹れてくれるけど。

C棟のそばの自販機に夏限定のレモンスカッシュが入っていて。わたしがそれにハマってることを知っている先輩は、「気をつけろよ」と一言。




「あ、姫待って。俺も行くわ〜。

俺もレモンスカッシュ飲みたい」



「……? 買ってこようか?」



「ううん、作業キリいいとこまで終わったし」



ちょっと休憩、と。席を立った椛に、「じゃあ一緒に行こう」と声をかけて財布とスマホだけ持つと部屋を出る。

本当は財布だけで良いんだけど、万が一何かあったら困るから、C棟を出る時は常に持つように言われていた。



「……あ。ネックレスつけてくれてるのね」



せっかく夏のさわやかな雰囲気を楽しめる快晴の今日も、C棟の廊下は薄暗くて。

あとでリビングの窓開けて部屋の換気したいな、と、そんな些細なことを考えながら外に出れば、椛の胸元にはプレゼントしたネックレス。



暑苦しいのが嫌いだからとシャツのボタンをふたつ開けているから、綺麗な鎖骨が覗く。

その上に、昨日までなかった細いシルバーチェーンが胸元を彩っていることに気づいた。