顔を覗き込めば、ぷいっと逸らされる。

それからぼそっと「勉強教えてくれるなら許してあげても良いよ」と一言。ツンデレかよ。



「教えてやる。いくらでも教えてやるよ〜」



「……ほんと?」



「ん。昔よく教えてやってたねえ」



まあ呉ちゃん頭良いんだけどな。俺が教えなくても十分できる頭脳の持ち主なんだけどな。

……っていうか。俺がそもそも教師になろうと思った理由は、昔呉羽が「兄ちゃん教え方上手だから教師になりなよ」って言い出したのがはじまりだし。



どれだけ呉羽のこと好きなんだよ俺。

もちろん瑠璃と翡翠のこともすげえ好きだけど。



なんて思いながら解放してやれば、呉羽は何かを思い出したように俺を見る。

それから「南々先輩のこと、」と不意に出てきた名前に、ドキッと心臓が変な跳ね方をした。




「兄ちゃん、好きだよね?」



「……夕陽になんか言われた?」



「ううん、何も。でも夕陽、先輩にもらったネックレスずっとつけてるし、相当好きだよ?

……フラれたことにショック受けて女の子たくさん相手にしてたけど、先輩もどってきたの知った瞬間にやめちゃった」



わかりやすいよねって笑ってる呉羽。

いやあの夕陽がそこまで一途とか、俺からすれば笑えないんだけどな、と顔を引きつらせていたら。



「でもまあ、仕方ないよね。

夕陽、南々先輩で"卒業"したかったのに、その機会伺ってる途中でフラれちゃったんだもん」



「は……?」



呉羽の発言に目を見張る。平然としてるくせにちゃっかり「卒業」に込められた大人な意味に驚くけど。……そう、か。もう中3だったら呉羽もそういう知識ぐらいあるわな、と妙に納得する。

……うん。 男はやっぱり、ケダモノです。