「こんな暴力的なことすんの、夕さんか莉央しかいないし……
莉央がいねえんだから必然的に夕さ……すみません冗談です」
「あら、あたし何も言ってないけど」
「夕さんは、なんだかんだ分かりやすいですからね」
くすくすと。笑ったルノが、言いながら紅茶を淹れたカップを並べてくれる。
夕焼けをそのままカップに注いだような、綺麗なオレンジ。何の紅茶?と問えば、今日はアップルティーらしい。それでこの色ね。
「っていうか、あんたどうしたの?二日酔い?」
「夕さん一体俺のこと何歳だと思ってんだ」
椛が拗ねたように言うから、思わずケラケラと笑ってしまった。
まだあたしの手の中に残っていたタオルをルノが回収していく。もう一度「どうしたの?」と問えば、ただの「寝不足」。
「あんた、また人妻のとこ遊びに行ったんでしょ」
「声をかけた相手が偶然左手に指輪してただけですー」
「……いつか刺されるわよ、ほんとに」
相手の旦那と揉めたら、法律上で不利なのは椛の方だろうし。
……まあそれでも俺らが止めないのは、そこにちゃんとした理由があるからで。ただの遊びなら、さっさと止めてるけど。
「……家庭壊すようなことだけは、しちゃだめよ」
「はは、当然」
状況を知っているが故に、息苦しくて仕方ない。
起き上がった椛がアップルティーに躊躇なくスティックシュガーを3本入れるのを、引きつった顔で見てからあたしもカップに口をつけた。



