「……ふう」



「兄ちゃん、楽しそうだったね」



「呉……夜更かししてるなよ〜?」



瑠璃と翡翠を寝かしつけてから風呂に入り、リビングのソファに座って一息つく。

誕生日を祝ってもらったことを思い返していたら、部屋から下りてきたらしい呉羽はキッチンの戸棚から背の高いグラスを取り出しながら、「俺もう中3だよ?」と困ったように笑った。



「そうなんだけどねえ。

お前と出会った頃の記憶が抜けねえんだよ〜。まだ小さかったしな〜」



「……兄ちゃんだって小さかったよ」



……あれからもう10年も経ったのか。

っていうかその間に俺も10年分成長してんのか。そりゃ呉も大きくなるわけだな。




「呉羽〜」



カウンター越しのキッチンにいる、顔の見えない弟の名前を呼ぶ。

普段俺が「呉」とか「呉ちゃん」とか呼んでるせいでまわりもそう呼ぶから、呉羽と呼ぶのは夕陽ぐらいだ。



「……お前俺に隠し事してるだろ〜」



「隠し事? してないよ」



「嘘つけ。……してるじゃねえの」



それでも面と向かってその名前を呼ばないのは、俺の甘えだ。

いまだって顔を見れないこの状況じゃなきゃこの話を切り出したりしなかっただろう。かわいい弟だと本気で思ってるし、きっと呉は俺を頼れる兄貴だと思ってくれてる。



だけど、どうしても。

俺らの母親が違うという現実は変わらない。