理事長は割とふわふわした人、というか。
普段の姿だけ見れば、決して理事長とは思えない言動をする。ロイヤル部、なんてふざけた改名だって、聞いただけで面白がって許可を出したのはあの人だ。
楽観的で、何も考えてないように見える。
だけどどこまでも先を見据えて、何よりも物事を重く感じている人。誰よりも、自分自身に責任を持ってる。
その理事長が。
秘密だらけのこの箱庭に所属する生徒の中で、唯一、彼女についてだけは、情報をくれなかった。
どうしてここに来たのかも、どういうつながりなのかも、何一つとしてわからない。
決して安全とは言えない相手だ。……初対面の対応を見る限り、そんな要素は微塵として見受けられなかったけれど。
あれが全部仮面で、自分自身を演じている、という可能性も無くは無い。
信じた相手が実は自分を陥れる展開なんて、飽きるくらいに聞いた。──何よりも先に疑うことでしか、真実を見抜くことはできない。
「たまには騙される側に回るのも良いだろ」
「っ、ばか!
お前が騙されたらこの学校の均衡が崩れるだろうが!」
何人の上に立ってると思ってんだよお前……!
ロイヤル部だってダテに強いメンツ集めてる訳じゃねえけど、それでも支えきれるもんってのには限度がある。なのに、こいつは。
「冗談だ。
……本当に"悪"なら、そもそも理事長がここへの転校を受け入れたりはしない」
「……お前なあ」
「この学校の絶対は、俺じゃない」
「………」
「頂点は常に、『八王子』だ」
まあそれはな……と、思ったことは言葉にならず、代わりに呆れるようなため息が漏れた。
あいつらも苦労してるしな、と。すぐそこのリビングの中にいるであろう、ふたりの『王子様』の顔を思い浮かべる。……いや、そこにいるのは、片割れだけか。



