首をかしげたら、「おー」とやる気のない返事。
わざとらしく逸らしたつもりはなかったけれど、姫に誤解を与えてしまっていたらしい。それなら謝んねえと、とようやく立ち上がってプールサイドへともどる。
「あ、おかえりなさい」
いち早く気づいたのはビーチチェアに浅く腰掛けて水分補給しているルノで、その膝に乗るのは翡翠。
めずらしく瑠璃じゃねえんだな、と思っていたら、瑠璃は呉羽とプールサイドに腰掛けて、足だけばたつかせていた。
「……おかえり、椛」
「ん……、ただいま」
姉さんといっちゃんのビーチチェアの間。
座っていた彼女は歩み寄ってくると「はい」とジュースを手渡してくれて、できるだけいつも通りに装って受け取る。
ただ見つめ合ってるだけの時間も、
まるで駆け引きされているような気分だ。
「お昼食べてもどってくるの面倒だから、すこし長めにプール入って、それからお昼にしようってみんなで決めたの。
お昼ご飯また用意してくれるらしいんだけど、」
「……、そっか」
「椛パエリア好きじゃなかったっけ?
パエリアあるって、ルノが言ってたわよ」
何気ない会話に、肩が揺れる。
パエリアが好きって、たしかにどこかのタイミングで言ったかもしれない。だけどそんなの、俺すらいつ言ったのか覚えてないような、話題で。
「うん……好きだよ。姫は?」
「え?」
「パエリア。好き?」



