だけどいざ自分の中で感情が変わりそうになると、どうしようもなく足が竦む。
そんなことで?って笑われるかもしれないけど、本気で誰かを好きになったことなんてないから、自分でも未知数な感情に怖くなる。
「莉央って誰かのことすきになったことある?」
「……いや? ねーな」
中学時代は女の子と関わる機会も多かったけれど、よく「恋したい」と言っているのを聞いた。
だけどそれが魅力的なものだと思ったことは、正直一度もなかった。好きだからこそのマイナス的でネガティブな感情を、いくつも見たし。
「姫のこと、どう思う?」
いまだに、訳のわからない感情だと思う。
相手のことをどうして好きになるのかも、好きになった相手のことで衝動的に動く自分自身も、想像がつかなかった。
だからさっき、彼女から逃げてきた。
「なんとも思わねーよ。
俺から見たあいつは、一応姫っつーポジションにいて、いつみが一途な相手。それだけだろ」
「……そう、だねえ」
あのままじゃ、自分の中で何かが崩れると思ったから。
砂の壁は、乾いた砂だけじゃ建てられない。水をすこし混ぜて固めることで建てるけれど、その水の量が多すぎると、今度は脆く崩れ去る。
「いーんじゃねーの、別に好きになっても。
いつみはそんなことで文句言うような男じゃねーだろ」
「別にいっちゃんの顔色うかがってるわけじゃねえよ」
だとしたら、どうして。
俺は、こんなにも怖がってるんだろう。
「こんなこと言うのなんだけどよー。
どっちかっつーと、俺はやめといた方がいーんじゃねーのって思うぞ」