「……っつーことは、
マジでいつみが探してた「姫」はお前だったってことか」
「……そういうことね」
「よかったねえ、いつみ」
莉央とルアのおかげで、どことなくほのぼのとした空気がもどってくる。
ふと椛が静かだなと顔を上げたら彼は目が合った瞬間に、「ちょっと瑠璃と翡翠のこと頼んだ」とみんなに告げると、なぜかプールを上がってどこかに行ってしまった。
……え、なにいまの。
「椛……?」
どうしてあんなにわざとらしく逸らされたのか。
わけがわからなくて目を瞬かせるわたしに、見抜いたようにくすりと笑った夕帆先輩は「ハマっちゃったか」と一言。
「ハマった……?」
「ううん、南々瀬ちゃんは気にしなくていいわよ」
……そうは言われても、あんな風に目を逸らされたのはなんとなくショックで。
様子を見てこようかと思ったら、「あいつ見てくるわー」と莉央に先を越されたせいで、結局どうすることもできなかった。
ぐるぐると頭の中でまわる感情。
それに気づいたようにいつみ先輩は苦笑して。
「……あいつがもどってきたら。
ジュースでも渡して声かけてやれ」
「……はい」
ぽんぽんと、頭を撫でてくれる。
そこにさっきのような甘い熱は存在しなくて。──ほんのすこしだけ、物寂しかった。