慌てて顔を上げて否定したら、ルノは「してないんですか?」といつみ先輩に尋ねる。

それに対し先輩が「さあ?」なんてまたしてもややこしいことを口にしたせいで、空気が不穏だ。ちゃんと否定してください。



「ほんとにしてないから……っ!」



「……でも俺はムカついたので。

責任とってやっぱりキスしてください」



「どうして!?」



意味がわからない。

何がしたいんだこの子と、グレーのかかるブラウンの瞳をじっと見つめるけれど、「いいですよね?」なんて言い出す始末。誰か助けてほしい。



「ルノ、やめとけ。

こいつは俺のもんだから手ぇ出すな」



「いつみ先輩それは勘違いです。

一瞬ルノを止めてくれたと思ったわたしの感動を早急に返してください」




どうしていつみ先輩はこうやってときおりネジが外れるんだろう。

っていうか、狙ってるとは言われたけど好きとは言われてないし。遊び感覚で揶揄われてるだけなんじゃ?と、一瞬そんなことが頭をよぎった。



「でもお前、間違いなかったんだろ?」



「え?」



「親に聞いたら本当に間違いなかったって」



……ああ、そのことか。

わたしがこの間母親に聞いたのは、幼い頃にパーティーに行ったかどうか。聞けば彼女は、「ああ、あるわよ」なんて簡単に口にして。



『3歳くらいのときよねー。あの1回しか南々瀬のことパーティーに連れて行ったことないんだもの。

目を離したうちに子ども部屋からいなくなってて、あわてて部下に探しに行ってもらったんだけど、戻ってきた南々瀬は途中で王子様みたいな男の子と会った!ってご機嫌だったのよねー』



完全に内容が一致していた。

でも今なら言える。彼は王子様じゃなくて王様だ。