途端に大騒ぎになる。

どうやらわたしが振り返る形になっていたせいで、キスされているように見えたらしい。実際にはされていないのだけれど、それを否定する余裕もなく。



「……ななせ、だいじょうぶ?」



「だ、だいじょうぶじゃない……っ」



浮き輪に顔をうずめるようにして伏せる。

顔にときおり触れる水が冷たい。顔が熱い。っていうか、はやくキスしてないって否定してくださいいつみ先輩……!



「あーあ、椛に気をとられてたけど。

本物のオオカミはそっちだったのね」



「のんきに観察してる場合じゃないですよ。

……っていうか南々先輩ちゃんと拒んでください」



そしてなぜかわたしがルノに怒られている。

おかしい。いつみ先輩が突然迫ってきたのが悪いのに……!あの黒い瞳にあんなに見つめられたら逃げたくても逃げられないし……!




「南々先輩」



「……っ」



「なんかムカついたんで、

俺ともキスしてもらっていいですか」



「!?」



何言ってるのこの子……!

っていうか今、"俺"って言った?え?いまのってルノの発言よね?怒ったら一人称変わるの?それよりルノはなんで怒ってるの?



「南々先輩」



「っ、してないから……!

ギリギリだったけどしてない……っ!」