「っ、」
いや、触れたん、ですけど。
耳に触れたのはやわらかな感触で、囁く声がやたらと甘い。思わずドキッとして振り返れば、いつみ先輩はふっと口角を上げる。
彼の腕から伝った雫が、滴り落ちてわたしの頬を伝う。
その雫が伝ったところにくちびるを押し当てられたせいでこれ以上ないぐらい真っ赤になるわたし。
「っ、い、つみ先輩、」
誰かこの王様の悪戯に気づいてほしい。
赤く染まった頬を指で撫でられて、その感触にまで動揺させられる。
「……っ」
頰に添えられた指がわたしの顎を掬うように持ち上げ、詰められた距離で吐息が触れそうになる。
すぐそばにあるはずのみんなの声が遠い。ドキドキとうるさい心臓。拒めばいいはずなのに、たったそれだけのことが出来なくて。
ああでもこの人、わたしのこと狙ってるとか言ってたし。
このままじゃ絶対逃してもらえない。絡む視線に熱が孕んでいることに気づけばたまらなくなって目を伏せると、余計に距離が縮まったことに気づいた。
そのせいで、震える吐息に彼の吐息が重なって。
「……いつみ?」
耳にした声に、先輩が動きを止める。
ルアのたった一言でみんながようやくこちらの様子に気づいたのか、「は?」「え?」と声が上がる中で。
「ごちそうさま」
キスなんてしてないくせに、
先輩が心底楽しそうな顔でそんな発言をするから。
「え……!?
いや、待っ、いっちゃん……!?」



