◆ Side夕帆
「……ねえ、あんた本気?」
さっきまでの騒ぎがまるで幻だったんじゃないかと思うほど、静かな廊下。
まあここはC棟だから当たり前なんだけど、と。リビングに向かってすたすたと足を進めるいつみに声をかける。
「何が冗談なんだよ」
「……あんたが、『姫ちゃん』を探してることは知ってる。
でも、ただその可能性があるってだけでしょう?」
「間違いない」
「……はあ」
まるで人の話を聞く気が無い。
昔からいつみはこうだ。こう、と決めたことがあれば、本当にあた……俺でも手をつけられないほどに、頑固というか。
「……まあいいわ。
とりあえず、南々瀬ちゃんがあんたの言う『姫ちゃん』と同一人物だったとして」
「………」
「まさか、会ってまだ2日の子を好きだなんて言わないでしょう?」
これでも、この男は用心深い。
いつだって与えられたものを疑い、真実を見抜いてきたいつみが、そんな不用心なことをするわけがない。
「訳あって迎えた転校生の、情報を。
……理事長が俺らにくれなかった理由なんてわかってるだろ」
「俺らじゃ扱えない案件、ってことだろ」
「……そうだよ」



