「『わたしが何のために理事長秘書してると思ってんの!?珠王を継がないっていう意思表示のつもりだったんだけど!?』って怒られた」
「……本当になんで付き合ってなかったんですか」
「あたしもいまになってそう思うわ。
深く考えすぎてただけね。……あとは、初恋拗らせたあいつのせいよね」
「人の聞いてねえところでさらっと悪口言ってんじゃねえよ」
「……あ、いつみ先輩」
さっきまで呉羽くんとプールに入って何か話してたのに。
いつの間にかプールサイドをこちら側まで歩いてきたらしいいつみ先輩は、わたしに「入らねえのか?」と首をかしげる。
水も滴るいい男って言葉がよく似合う。
学校の女の子たちが見たら大騒ぎしそうだ。
「これ飲み終えたら入ります。
いつみ先輩こそ、もう入らないんですか?」
「いや。お前が来ないから声掛けに来た」
……それなら早く行かなきゃいけないじゃないか。
残り少なかったフルーツジュースを飲み干して空になったカップをパラソル下のテーブルに置くと、立ち上がって一度だけ伸びをする。
「そういえば、夕陽が嘆いてましたよ?
仕事で一緒に遊べないからつまらないって」
くるりと先輩ふたりを振り返って言えば、なんとも微妙な表情をふたりから向けられてしまった。
特に夕帆先輩がこれ以上ないくらい嫌そうな顔だ。
「あいつと連絡とらないほうがいいわよ」
「普通のやりとりしかしてませんよ?
『芸能人だと気軽にデートに誘えなくてつまらないから家行っていい?』って聞かれましたけど断固拒否したので大丈夫です」



