「すみません。
ありがとうございます、送ってもらっちゃって」
厳重すぎるマンションの前で、彼にお礼を言う。
いつみ先輩は何か言おうとして口を開いたけれど一瞬黙り込み、それから取り繕うようにして「また連絡する」とだけ告げて帰っていった。
「……、」
その後ろ姿を、ぼんやり見つめてから。
オートロックを解いて、顔見知りのコンシェルジュの男性に会釈してからエレベーターに向かうと、ローマ数字の書かれたボタンを押す。
ふっと息を吐いて目的の階でエレベーターをおりると、静かな廊下を歩いて、鍵穴に鍵を差し込む。
厳重ではあるが、中の造り自体は大して普通のマンションと変わらない。緊急時には、色々システムが作動するようになってるだけで。
「……ただいま」
誰もいない家にそうつぶやいて、廊下をまっすぐ歩くとリビングに足を踏み入れる。
着替えるの面倒だな、とソファにそのまま沈んで、スマホを取り出した。
……いま連絡して、出てくれるだろうか。
いや、出てくれなくても後で折り返しの連絡がくるだろうし。
連絡先の中の『お母さん』を選んでタップし、耳に当てる。
しばしのコール音が響いて、やっぱりいそがしいかと切ろうとしたところで『もしもし?』と電話がつながった。
「あ、お母さん? いま平気?」
『ええ、大丈夫だけど……
南々瀬が連絡してくるなんてめずらしいわね』
たしかにわたしが連絡するなんてめずらしい。
いつも理事長が仲介に入ってくれていたし、忙しい両親の迷惑をかけたくないから、と、こっち側から連絡することはまずない。
今回だけは特別だ。
"姫"として彼らのそばに置いてもらっている以上、どうしても確かめたいこと。
「あのね、聞きたいことがあって……
わたし、3歳くらいの頃に、パーティーに参加したことってある?」



