「まあ、無理に俺のもんにしようとは思ってねえよ。
……なりたいって言うならすぐにでもなればいいけどな」
"ごめんなさい"。
そう言おうとしたわたしの言葉を悟ったように先にそう言い切ったいつみ先輩は、「この後どうするんだ?」と誰にともなく問い掛ける。
おかげで何も言えなくなってしまって、口を噤んで視線を向けた先で夕帆先輩と目があった。
彼はふっと笑みを浮かべたけれど、その姿が過去の夕陽とよく似ていて、やっぱり兄弟だなと思う。
「……そう、ね。
特に用事もないなら解散でいいんじゃない?」
「いっちゃん、姫のこと送ってやれよ~。
瑠璃と翡翠寝てるし、俺はもうちょいお邪魔してから帰るし。莉央と姉さんは学校もどるんだろ~?」
「……え、いや、ひとりで帰れ、」
「送ってやるよ。
ひとりで帰らせられるワケねえだろ」
いつみ先輩に強く言われてしまっては、わたしも引き下がるしかないわけで。
甘えてくるルアに「またね」を告げてから部屋を出ようとすると、何かを思い出したように呉羽くんがわたしの元へと駆けてきた。
「南々先輩!
あの……夕陽、あんな態度ですけど、冗談で言ってるわけじゃないと思うので」
「……うん」
「連絡……してやってください」
頼りなく目尻を下げた彼に小さく笑って、「わかった」と返す。
期間を考える以上、夕陽と付き合うわけにもいかないのだけれど。どうして留学を機に別れたのかも説明しないと、彼は納得してくれないだろう。
それを自分の口から話せるのは、
わたしがここを去る直前に、なるけれど。
「……覚えてるわけじゃないんだろ?」



