そしてどうやら、いつみ先輩と夕帆先輩以外はその事情を知らなかったようで。

「そういうこと」と返事した夕帆先輩は、ふあっと欠伸をこぼした。



「やーっと肩の荷がおりた気分だわ。

あたし3年も女装してたのよ、3年」



「……卒業まで女装すればいいじゃねえの。

夏休み前にロイヤル部の王子の片割れが増えて、夏休み明けたら女王様が男になってたら色々パニックになりそうだけど〜?」



……たしかに、何があった?ってなりそうな事情ばっかりだ。

しかもロイヤル部のみんながC棟から出ないせいで、余計に。



「それに夕さん、

NANAの兄だってバレたらまずくないですか?」



「まあ、それは……ね」



悩むように彼女は視線をそらすけど、きっと本来の姿にはやくもどりたいんだと思う。

当然ながら、それにはいくみさんが関わっていて。




「いくみの前では男でいたいんだろ」



「なんかその言い方めちゃくちゃやらしくない?

まあ大体間違ってはないけど……」



「さっさと付き合ってこい。

……ああ、あと。南々瀬」



「え?あ、はい。なんですか?」



唐突に名前を呼ばれて、油断していたわたしはバッと顔を上げる。

不敵に笑みを浮かべる彼。どうしようもなく美しい人。──王宮学園の、唯一無二の絶対王者。



「そういうわけだから。

……俺はお前のことはじめから狙ってるぞ」



「……っ!」