……とまあ、そんなジョークはさておき。
あたしたちが姫探しをしているのは、いつみの初恋の女の子を探すため。
冗談だろ?と思うかもしれないけど、いつみはああ見えてものすごく一途だ。
正直に言おう。拗らせまくった末に未だに初恋を引きずっている。もうここまでくるとちょっとイタい。っていうかもう怖い。
だけどまあ、そこは幼なじみだし。
仕方なく協力してやってたけど、どれだけ頑張ってもさすがにそんな女の子は引っかからなくて。
もうそろそろあきらめない?と。
「……そんなときに転校してきた女の子が、
偶然にも『姫』のつく、ひとつ年下の女の子」
いつみは、はじめて会った時から間違いないって言ってた。
だけどまさか4歳のときの記憶を明確に覚えているわけないし、名前もうろ覚え。姫、のほかに、なんとなくで発音は覚えていたものの、それがどんな文字だったのかはわからない。
だけど「姫川 南々瀬」は見事にそれに当てはまる。
名前の記憶も幼いときの姿もすべてが一致する、と、いつみが決断したのが彼女だった。
「……南々瀬ちゃん。
信じられないと思うけど、いつみが初恋を拗らせて拗らせて拗らせまくった結果がこれなの」
「………」
「南々瀬ちゃんはこのこと、覚えてたりする?」
1秒、2秒、3秒。
お互いに、視線は逸らさないまま。──くすり、と、彼女が小さく笑みをこぼす。
「すみません、覚えてないです。
わたし幼い頃にちょっとしたトラウマがあって、それぐらいの年齢の記憶を自分の中で塞ぎ込んでしまってるので、あやふやで。でも、」
「でも……?」
「好きな花は……
幼い頃からずっと、薔薇って言ってます」