「いつもなぐさめて、くれたじゃない……
それが言葉から身体に変わるだけのことで、」
「いくみ姉」
「いつまで……
そうやってわたしのこと姉だと思ってるの」
姉だなんて思ってない。
俺の瞳にうつる彼女はいつだって女だった。俺の姉でもなければいつみの姉としてでもなく、たったひとりの女として、ずっと見てた。
だからいくみ姉って呼んでるんだよ昔から。
そうまでしないと、どうしようもなく触れたくなるから。
「抱けないし、抱かない。
……その方法で慰めて欲しいなら他あたれよ」
押し倒されたって、中学生にもなれば俺の方が力が強い。
強引に彼女を押し退ければ、いくみ姉は泣きそうな顔をする。それからぽろぽろと零した涙を自分の手でぬぐって、俺のもとを飛び出していった。
俺が女装すると決めた理由の一つがこれだ。
彼女にこれ以上、俺を男だと意識させないように。……いや、意識はして欲しいけど、もう二度と彼女が「抱いて」なんて馬鹿げたことを口にしないように。
そして自分の発した言葉のせいで、俺と関わりにくそうにしていた彼女が、もう一度気兼ねなく俺のことを頼れるように。
「抱いて」と口走る前の、元の幼なじみの関係にもどれるように。
……幸いなことに戻れはしたけど、それ以来いくみ姉は一度もフラれて俺を頼ったことはない。
代わりにいつみに泣きつくようになって、そのたびにいつみは「夕帆を頼れ」と言ってるらしいが、あの日俺に拒否されたことがトラウマみたいだ。
「いくみさんに関することがそれ、ってことは……
女装する理由は、ほかにもあるってことですよね?」
話をしたいと言ったら、ルノが「好きに使ってください」と言って貸してくれた空室。
どうやら客室のようで、窓を開けたら夏の湿っぽい風が入ってくる。
その風に髪をなびかせながら俺を振り返る彼女の姿は、何の下心もなく綺麗だと思う。
いつみが好きになるのもわからなくはないけれど。
「そう。……あとは、いつみに関すること。
ロイヤル部がずっと姫を探していたことは、当然南々瀬ちゃんにも話したから知ってるわよね?」



