ベッドに、押し倒されてる。

しかも、相手はずっと好きだったいくみ姉。



そう自覚した途端、一気に全身が熱を上げる。

本来ならご褒美的展開ではあるが、なんせ彼女はいま「彼氏にフラれた」と俺のところに来たわけで。ラッキーと思うよりは、焦りの方が大きい。



「夕帆」



「な、に」



「わたしのこと、抱いて」



「な、に言って……」



ぼろぼろと、滑稽に言葉が崩れる。

あまりにも唐突すぎて脳が追い付かない。それでも、俺の答えなんて期待していなかったかのように触れようとしたくちびるを、手でふさいで止めた。




「……なんで止めるの」



「なんで、じゃねえよ。

受験生になって真面目に勉強してる男にそういう冗談言うのタチ悪いと思うけど。なにされたって文句言えない状況じゃん」



「……冗談でこんなこと言うと思う?」



わかってる。……わかってるよ。

いくみ姉が冗談でそんなこと言わないって。わかってるから、わざと冗談だってはぐらかしてんだよ。──じゃねえと、壊れそうだから。



「……本気で言われてんなら、なおさら無理」



表に立つのは『珠王』で、『女王』はあくまで裏。

跡を継ぐのはいつみだと思ってたけど、いくみ姉が俺に隠れて『珠王』を継ぐために勉強をしていると気づいた時から、好きとは言えなかった。



表に立つ彼女の隣に、並んではいけなかった。

いつみと同じように『珠王』を継ぐんだとしたら、彼女の隣に並ぶのは、それにふさわしい相手じゃないとダメだった。