「夕帆〜っ」
「……なに、いくみ姉。
もしかして、また彼氏にフラれたの?」
3つ年下の弟は、母親と住んでいる。
そして父親はいつみの父親について仕事をしている、となると、家には俺だけの状況も多い。
前はいつみの家に通っていた俺もその時間は年々減って、受験生の後半ともなればそれこそ遊びに行かなくなる。
そんな中俺に泣きつくいくみ姉が家に来る理由なんて、彼氏にフラれた時だけだ。
皮肉だろ?
彼氏にフラれた時だけ俺を頼りに来るなんて。
「はいはい。泣くなって。
毎回痛い目見んだから、いい加減恋愛休めば良いじゃん」
女から恋愛を取ったら廃る!という、わけのわからない理論で、いくら痛い目を見ても恋愛を途切らせないいくみ姉。
昔は俺よりも大きかった彼女も段々俺の腕におさまるほど小さくなってきて、俺が成長しているんだと嫌でも気づく。
それでも、できることなら早く大人になりたかった。
愛しいたった一人の彼女を、自分のものにできるなら。
「夕帆……」
「ん?」
弱々しく俺の名前を呼ぶ彼女。
どした?と顔を覗き込もうとした瞬間、強く抱きつかれる。──不意打ちのそれに驚く間もなく首筋に触れたやわらかな感触が、ほんの一瞬の痛みとともに鮮やかな痕を刻んだ。
「は!? ちょ、なにして……っ」
見るのもつけるのもなにげない、ただのキスマーク。
それでもつけた相手が相手だ。動揺するには十分すぎて、一瞬にして余裕をなくした俺が肩を押されてどさっと倒れこんだのは、やわらかなマットレスの上。
「いくみ、姉……?」



