「これ? この間お祭りでもらった景品。
えっとね、『誰でも博士風になれるヒゲメガネ』だって」
「そのままじゃねーか」
ネーミングセンスが見事に仕事してないな。
しかも博士"風"って。そこはもう博士になれるでいいじゃん。っていうか、メガネにぐるぐると曲線が書いてあるせいで、怪しい博士感が凄い。
「ちょっと夕帆これつけてよ」
「……絶対ヤダ。
爆笑しながら写真撮るいくみ姉の姿が目に浮かぶ」
「すごいね未来予知だ!」
「いくみ姉が分かりやすいんだよ。
っていうかほんとに爆笑しながら写真撮る気だったのかよ」
俺らはいつもこんな感じ。
お互いにふざけあって、ふたりで騒いでたら「お前ら人の部屋で騒ぐなうるさい」っていつみに怒られて。そんなくだらない生活が俺らの日常。
「あ……!やっばい、約束してたんだった!
ごめんね夕帆、出かけてこなきゃ」
「え?あ、うん。いいけど」
「じゃあね!」
ひらひらと手を振ったいくみが、慌てたように部屋を出ていく。
一瞬の隙に出ていった彼女を半ば呆然と見送った俺に「彼氏だと」と言ったのはいつみだった。
「彼氏?」
「高校生になって、モテるらしい。
彼氏できたってこの間自慢された。でも一番はいつみだからねってしつこく言ってきてめんどくさかった」



