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昔から『珠王』と『女王』はセットだった。
「いつみ、どっか遊びに行かねー?って……
お前また勉強してんの? 飽きねえな」
「……同じことばっかりやってたら飽きる」
「飽きたようには見えねえけど?」
「この間やってたのは生物だよ。
今やってんのは数学だから、同じじゃねえだろ」
「……お前一周回ってアホなんじゃねえの」
いつみの父親の実家は、元々小さな診療所だったらしい。
けれどいつみの父親がその診療所から世界最高峰の医療技術を築き上げる過程で、その親友であり弁護士だった俺の父親が、サポートについた。
だから生まれた時から、俺らは幼なじみで。
跡を継ぎ医者になるであろういつみのサポートに俺はつくんだろうと、なんの脈絡もなくそう思っていた。
表に立つ『珠王』と、裏方の『女王』の関係は、いつまでも崩してはいけなかった。
その親密な関係と仕事を見て、俺の両親は離婚した。
"珠王のために"という目的だけではたらく父親に、母親がついていけなかったからだ。
それくらいに俺らの父親同士はお互いを信頼し合っていたし、俺といつみも仲が良かった。
「っていうか、生物とか数学って。
お前それ何年の勉強してんの?俺ら小5なんだけど」
「まあまあ夕帆くん。
我が弟は将来を見据えて頑張っているのだよ」
「……いくみ姉、なにそのヒゲとメガネ」
いくみ姉は、俺といつみの5つ年上で。
物心つく前から一緒にいるいくみ姉に、俺はなにも考えることなく惹かれていった。



