どう足掻いても彼女を好きでたまらないのは一目瞭然だった。
夕陽の右手が、ネックレスに伸ばされる。そのトップをぎゅっと握り込んだ夕陽の肩を、ぽんぽんと慰めるように呉羽が叩いてやっていた。
「……困ったもんだな」
「今日は随分と素の口調で話してるけどいいのか、夕帆。
お前いまは女の格好してんだぞ」
「いいよ別に。どうせ知ってるメンツばっかだし」
なんとなく、夕陽から視線を逸らしたくなった。
俺も同じ立場だから偉そうなことは言えない。前に進めていないのは何も夕陽だけじゃなくて、結局大事なことなんて何も言えない俺も、だ。
「お待たせしました」
コンコンと、部屋の扉がノックされた後。
運ばれてきたのはルノがさっき頼んでた人数分のお昼で、それにしても豪華だなと思う。さすが八王子。
恋愛に比べるものなんかないけど、夕陽と比べれば、たぶん俺の方が幾分かマシだ。
だって俺の場合は、片想いじゃないから。それに、幸いというかライバルもいない。
夕陽が俺を嫌ってる理由はそこにもある。
手を伸ばせば届く距離にいるいくみに、未だに手を伸ばせていない俺のことを焦れったく思ってるんだろう。
今までは、ただ単にそのもどかしさに苛立ってるんだと思ってた。
だけどそうじゃなくて。……手に入らない相手を知ってるからだって、いま気づいた。
「……いつみ」
「……なんだ」
「俺そろそろ女装やめようかと思うんだけど」
俺が女装してた理由は、いくつかある。
その全部がいくみといつみのためで、そうじゃなきゃいけなかった。そうすることでしか、俺なりに守ってやれなかったから。



