顔を出したのは、珠王先輩。
3年のあなたがどうしてここに、とは言わない方がいいんだろう。彼はまわりの声をまるで"無いもの"のように扱い、極普通に「おはよう」と声を掛けた。
……もちろん、わたしに。
「おはよう……ございます」
悲鳴が廊下から漏れて聞こえてきたのは、それほどに大騒ぎになっているからで。
そんなことを気にも留めていない彼は、「お前ケータイは?」と冷静に聞いてくる。
「……持ってます、よ?」
ブレザーのポケットに入れていたスマホを、何も考えることなく取り出す。
そうすれば彼はスラックスのポケットから黒いスマホを取り出して軽く操作したあと、今度は「連絡先は?」と尋ねてきた。
言われるがままにアドレスと番号を表示させて液晶画面を彼に見せると、珠王先輩はパッとそれを自分のに打ち込んで。
「また連絡する」と、わたしの頭を撫でる。……もしかしてこの人、わたしの連絡先を知るためだけにここまで来たんだろうか。
「ねえ、ちょっといつみ……!」
「夕帆。……遅かったな」
「遅かったなじゃないわよ!?
騒ぎ引き起こしといて、いつみが先々行くからあたしが巻き込まれたんじゃない……っ!」
ばたばたと駆けてきたのは、女王先輩。
ふたり並べば、さすがの美男美女。まわりの騒がしさも消えて、みんな見惚れてる。
「大体、どうしてこうなるの分かってるくせに来たのよ!?
昨日みたいに南々瀬ちゃんを呼び出して来てもらった方が、大事にならずに済むでしょ!?」
「それだと、見せつける意味がないだろ?」
「……は?」



