「そんなに俺のことが嫌い?」



「、」



「まあ嫌いでも良いよ。先輩と両想いだったのに付き合わないの知ってて、『利用しなよ』って近づいたのは俺だし。

葛城先輩と会えるってことは、あの人とも再会したんだ?」



「……夕陽に関係ある?」



「まだ好きなら慰めてあげようか?」



タチが悪い。

そんな気なんかどこにもないくせに。



生ぬるい時間に身を置いただけで、実際には何も変わらなかった。

付き合ったからって、お互いに恋愛感情も湧いたりしなかった。傷の舐め合いみたいな、嫌悪感を感じるような温度の中にいただけ。




「それとも、今度こそ付き合うことになった?」



「まさか。……もういいでしょ。

さっき言ってたじゃない、時間がないって。売れっ子芸能人は忙しいんでしょ?わたしに構ってる暇なんてない、」



ないんじゃないの?と。

偶然に向けた視線の先にあるものを見て、言いかけた言葉が止まる。喉の奥を急速に締め付けられたみたいに、言葉が出なくなった。



「……ほんとは。

女に振り回されない主義なんだけど、」



なん、で。……なんで。付き合ってたときに唯一プレゼントしてあげたネックレスを、未だにつけてるの。

大したものじゃなかったし、照れ隠しに「デザインが好みじゃない」って言ってたじゃない。わたしのことセンスないよねって貶してたじゃない。



「……そもそも俺のこと振り回せないような女に、興味なんてなかっただけかもね」



吐息のようにか細く囁かれたそれの意味を噛み砕くよりも、はやく。

目の前には、まぶたを伏せた綺麗な顔があった。