「離せ、っつってんじゃん……!」
「うるせえ喚くな。
人ん家の猫と戯れてんじゃねえよ」
「アンタが無理やり連れてきただけだろ……!!」
廊下から騒がしいやり取りが聞こえてきた。
っていうか夕帆先輩、とんでもなく声が低い。もう一方の声は夕帆先輩に比べたら圧倒的に高いけれど。……この声、どこかで。
「大体、俺は暇じゃないって言って……!!」
バンッ、と音を立てて、扉が開く。
そこから顔を出したのはやっぱり夕帆先輩で、彼は首根っこをつかむようにして弟を連れてきたらしい。
夕帆先輩の男の格好によく似ている、らしい、彼の弟。
興味本位で顔を覗いて。──3秒。
「は……?」
「え……?」
お互いに、フリーズした。
……ちょっと、待って。知ってる。
「ふは。姫固まってんじゃん。
まあ無理もないか……姉さんの弟、アイドルの"NANA"だしねえ」
「いや、兄ちゃん……
たぶん南々先輩が固まってるのは、NANAだからじゃないと思うんだけど……」
うしろから、のんきな椛と呉羽くんの会話が聞こえてくるのだけれど。
たしかにわたしは、彼がアイドルのNANAだから、固まっていたわけではなかった。
「……ナナ?」



