そう言ってようやく顔を出した夕帆先輩は、着替えただけでいつもの女性スタイル。
わざわざ着替えるんだから男性の姿で来てくれるのかな、と勝手に思い込んでいたけれど、どうやらそういうわけではないらしい。
私服だから余計にスタイルが良い。黒いスキニーパンツだけど脚が細いし長いし美脚すぎる。
トータルで、女として何か大事なところで負けた気分だ。
「あら、呉。ひさしぶりじゃない」
「おひさしぶりです夕帆さん」
「椛、あんたはこのかわいい弟の礼儀を見習いなさい。
本当にあんたはあたしに対して敬語が使えないんだから」
「そう言うなら自分の弟なんとかしろよ〜。
あいつも大概クソガキじゃねえの」
「知ってるわよ。……って、あれ?」
振り返った夕帆先輩は、まわりをきょろきょろと見回す。
それから「あいつどこいった」とつぶやいて、さっき入ったばかりの扉から出ていった。
「……夕帆先輩って弟いるんですか?」
「あれ、姫知らねえの?
姉さん男の格好したら、弟とよく似てんだよねえ」
「へえ……」
「あいつどこいった、って言ってるぐらいだし……
もしかして連れてきたんじゃねえの?」
そう言った椛先輩に、「えっ」と声を上げたのは呉羽くんで。
その声が予想以上に大きく響いたことで、みんなが「どうした?」という視線を彼に向けるのだけれど。
彼はもごもごと言葉を濁して、「あー、うん」と曖昧な返事をする。
それからも、何やらそわそわしているから首をかしげていれば。



